🇺🇸 アメリカ映画に胸が締めつけられる理由

そして、日本という“矛盾と共に生きる国”へ

いや、正確に言えば、こよなく愛している。
『スター・ウォーズ』『時計仕掛けのオレンジ』『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』……
ジャンルも時代もバラバラなのに、なぜか何度も見返してしまう。

ただ、面白いとかカッコいいとか、そういう理由だけではない。
観るたびに胸が締めつけられるような感覚がある。

深く、どこか痛みを伴うような、
感情がゆっくり動かされていくような、あの感覚。

そして、特に忘れられないのが、『タクシードライバー』のトラヴィスと、『キング・オブ・コメディ』のルパート・パプキンだ。

トラヴィスは、ベトナム帰還兵として帰国しながら社会に居場所がなく、夜のニューヨークでタクシーを運転しながら孤独と怒りを募らせていく。何か正しいことをしたいのに、何が正しいのかがわからない。その曖昧さに耐えきれず、やがて暴力に向かって突き進んでしまう。

一方のルパートは、ただ“有名になりたい”という強烈な欲望を持つ男だ。滑稽で、痛々しくて、でもどこかに共感してしまう。彼もまた、現実と理想のギャップをどうにも埋められず、現実逃避のまま突き進んでいってしまう。

彼らは、矛盾を矛盾のまま抱えていられなかった人たちだ。壊れてしまった人たち。でも、どこかで「自分もああなるかもしれない」と思わせられる。

1960年代末から1980年代初頭にかけて、アメリカ映画界に一つの潮流が現れた。
それが「ニューアメリカン・シネマ」だ。

勧善懲悪ではなく、正義も悪も曖昧なまま、主人公が壊れていくような物語。
社会不適合者、孤独、暴力、疎外――そんなテーマが真正面から描かれた。

背景には、ベトナム戦争の敗北と、それに伴う国家的幻滅感があった。
戦後のアメリカの理想――自由・正義・勝利――それらが崩れ、多くの国民が「この国は本当に正しかったのか？」と疑い始めた。

その矛盾や失望を、ハリウッドは物語に変えた。
それが、**『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』**のような作品群だ。

一方、日本はまったく違う国だ。

紀元前660年、神武天皇から始まるとされる2,865年の歴史。
もう、気が遠くなるような昔――
そのスタートは『古事記』や『日本書紀』に描かれた“神話の霧の中”にある。

日本の歴史は、あいまいで、連続していて、輪のように巡っている。
血なまぐさい過去がなかったわけじゃない。
でも、それは「神話」に包まれ、時とともに“ぼかされて”いく。

その精神性は、今の日本人にも確かに息づいている。

日本語は、あいまいな表現がとても多い。
「まあまあ」「どちらとも言えない」「空気を読む」
これは単に語彙の問題じゃなくて、
“白黒つけずに生きる知恵”が、言葉にまで染み込んでいるということだと思う。

もちろん、それを「はっきりしない」「優柔不断」と言う人もいる。
でも僕はむしろ、これこそが日本の強さだと思っている。

矛盾を矛盾のまま抱えて、立っていられる国。
それが、日本だ。

答えが出なくてもいい。
全部理解できなくてもいい。
はっきりしなくても、生きていける。

そんな柔らかさを持っているのが、
我が国の文化であり、知恵だ。

アメリカ映画に胸を締めつけられるのは、
壊れていく彼らの中に、
「もし、自分も矛盾と共にいられなかったら」という姿を見てしまうからかもしれない。

アメリカは、矛盾を越えようとする国。
日本は、矛盾と共に在ろうとする国。

どちらが正しいわけでもない。
ただ、違うだけだ。
そして、その違いに惹かれる自分がいる。

映画を観て泣くことがある。
あるいは、勧善懲悪ものに胸がすくこともある。

でも、そういう映画って、だいたい時間がたつと忘れてしまう。
どんなセリフだったか、どう終わったかさえ思い出せないことも多い。

ふとしたときに思い出すのは、
観終わったあと、うまく言葉にできなかった映画だ。
何が心に残ったのか、よくわからないまま、
それでも、残っている。

たぶん、そういう映画が、
自分の人生にとって本当に大事な映画なんだと思う。

だから僕は、アメリカ映画が好きなんだと思う。
胸が締めつけられるのはわかっていても、
それでもまた、観てしまう。